社内にAI人材がいない中小企業は、「外部の伴走支援を使う」「既存社員を社内担当者として育てる」「全社員に基礎研修を行う」という3つを組み合わせて進めるのが現実的です。専任のエンジニアやデータサイエンティストを新たに採用しなくても、AI導入は始められます。むしろ、業務をよく知る既存社員が外部の支援を受けながら慣れていくほうが、現場に定着しやすくなります。
「AIを使いたいが、社内に詳しい人がいない」——これは栃木県を含む多くの中小企業に共通する悩みです。本記事では、人材不足の実態を国内外の統計で確認したうえで、3つの進め方と選び方、栃木県で使える支援窓口までを、経営者・管理部門の方向けに整理します。
AI人材がいなくても導入は始められる理由
「AI人材がいない」のは、特別なことではありません。IPA(情報処理推進機構)の「DX動向2025」では、DXを推進する人材が「不足している」と回答した日本企業は85.1%にのぼり、米国・ドイツと比べても著しく高い水準でした。多くの企業が同じ壁に直面しているのが実情です。
採用で解決しようにも、専門人材の確保は簡単ではありません。経済産業省の委託調査「IT人材需給に関する調査」(2019年公表)では、IT人材は2030年に最大で約79万人(需要の伸びが大きい高位シナリオの場合、中位でも約45万人)不足すると試算されています。全国で人材の取り合いが続く中、中小企業が専任エンジニアを採用し続けるのは現実的とは言いにくいでしょう。
一方で、いまの生成AIは専門知識がなくても日本語の指示で使える道具になりました。コンサルティング会社マッキンゼーの調査「AI in the workplace(2025年)」では、生成AIを業務時間の3割以上に使う割合は、経営層の見立て(4%)に対し従業員の自己申告では13%と約3倍でした。同調査は「AI活用の最大の障壁は、準備のできた従業員ではなく、舵を切れていない経営層側にある」と指摘しています。つまり、人材がいないこと以上に「誰がどう進めるかを決めないこと」が足かせになりがちです。専任者を待つより、いまいる人材と外部の力で小さく動き出すほうが近道です。
社内担当者に必要な役割とスキル
AI導入で最初に決めたいのが、「社内担当者」を1人置くことです。その人を高度なエンジニアにする必要はありません。求められるのは技術力よりも、自社の業務を理解し、現場と外部支援の橋渡しができる力です。期待したい役割は、おおむね次のとおりです。
- 困りごとの整理: どの業務に時間がかかっているかを洗い出し、AIで楽にできそうな候補を挙げる
- 橋渡し: 現場の声をまとめ、外部の支援者や経営層に伝える
- ルールの徹底: 入力してはいけない情報など、社内の利用ルールを現場に浸透させる
- 使い方の共有: うまくいったAIへの指示文(プロンプト)や手順を、社内で共有・蓄積する
適任になりやすいのは、業務全体が見えていて新しいツールに前向きな人です。経産省・IPAの「デジタルスキル標準」(2022年12月策定、生成AIの内容を加えて改訂)でも、DX推進人材として技術者だけでなく事業全体を設計する「ビジネスアーキテクト」という役割が挙げられています。社内担当者は、この「業務と技術をつなぐ役割」の小さな第一歩と考えると分かりやすいでしょう。ただし丸投げにせず、経営層が方針を示して相談に乗る姿勢が定着の前提です。
研修で教えるべき内容と順番
社内担当者を決めたら、次は社員の底上げです。研修というと身構えがちですが、最初から高度な内容は必要ありません。前述のマッキンゼーの調査でも、AI活用が「成熟している」と答えた企業はわずか1%にとどまる一方、従業員はもっと支援や学びの機会を求めているという結果が出ています。まずは全員の足並みをそろえる基礎研修が出発点です。
研修は、次の順番で段階的に進めると無理がありません。
- 全社員向けの基礎リテラシー — 生成AIで何ができ、何が苦手か、入力してはいけない情報は何か、といった「使う前の前提」を全員でそろえます。
- 業務に即した使い方 — メール作成、議事録の整理、文章の要約など、自分の仕事ですぐ使える具体例を、手を動かしながら学びます。
- 担当者向けの一歩進んだ活用 — 効果的な指示文の作り方や、社内での横展開の進め方など、推進役に必要な内容を扱います。
順番を守りたいのは、いきなり高度なツールから入ると現場が置いていかれるためです。IPAの「DX動向2025」でも、日本はOJTや自己啓発の実施割合が調査対象国の中で低い傾向にあると指摘されています。だからこそ「学んで終わり」にせず、学んだことを実際の業務で試してふりかえる仕組みまで設計することが大切です。週に一度、うまくいった使い方を持ち寄る短い時間でも、定着度は変わります。
外部伴走を使うべきケース
社内担当者と研修だけでは進みにくい場面では、外部の伴走支援が有効です。経済産業省は2024年3月の「DX支援ガイダンス」で、人材・情報・資金が不足しがちな中堅・中小企業が独力でDXを進めるのは難しいとしたうえで、地域の金融機関やITベンダー、コンサルタントが「主治医」のように中長期で寄り添う伴走支援を、有効な新しいアプローチと位置づけています。
外部伴走を検討したいのは、たとえば次のようなケースです。
- どの業務から手をつければよいか、社内だけでは判断がつかない
- 何度か試したものの、社内に使い方やノウハウが定着しない
- 社内担当者はいるが、本業と兼務で時間を取りにくい
- セキュリティや情報の扱いについて、専門的な確認が必要
外部支援を使うコツは「丸投げにしない」ことです。すべて任せきりにすると、契約終了と同時に社内に何も残らない事態になりかねません。外部の役割を「導入の設計と立ち上げ支援」「社内担当者の育成」「困ったときの相談相手」と位置づけ、最終的に自社で回せる状態を一緒に目指すと、費用に見合う成果につながりやすくなります。同ガイダンスも、身近なデジタル化から始め小さな成功体験を積み重ねることが大切だとしています。大きな仕組みを一度に外注するより、小さく始めて伴走者と育てる進め方が現実的です。
海外・国内のAI人材育成事例
「採用より育成」という流れは世界的にも共通しています。前述のマッキンゼーの調査では、今後3年でAI投資を増やす企業が92%にのぼる一方、人材面では新規採用より既存社員の学び直し(リスキリング・アップスキリング)を重視する傾向が示されています。獲得競争が激しい専門人材を外から採るより、中で育てるほうが現実的だという判断が、規模を問わず広がっています。
国内でも育成の土台は整いつつあります。経産省・IPAの「デジタルスキル標準」は、全社員向けの「DXリテラシー標準」と推進役向けの「DX推進スキル標準」で構成され、生成AIの普及を踏まえて更新されてきました。研修をすべて自前で設計せず、こうした公開済みの枠組みを土台に自社の業務へ合わせるのが効率的です。
栃木県企業で現実的な体制づくり
栃木県の中小企業に心強いのは、公的な支援が無料で使える点です。県が設置した「とちぎビジネスAIセンター」では、2026年度に経営者層向けのDX戦略研修、実務者向けの生成AI業務改善研修、専門家が現状把握から導入・効果測定まで一貫して支える伴走型支援(DXアドバイザー派遣)が、いずれも参加費無料で実施されています(対象社数や募集時期には限りがあるため、最新情報は公式の案内をご確認ください)。「社内に人材がいない」段階の企業ほど、こうした入り口を活用する価値があります。
人材育成の面でも、栃木県はリスキリング支援に力を入れています。県は、リスキリングの進め方に関する無料の個別相談に応じ、3万講座以上を学べる「Udemy Business」のライセンス提供などを行っています。さらに、研修費用や訓練期間中の賃金の一部を対象とする国の助成金(人材開発支援助成金など)も、研修コストを抑える選択肢になります。制度の対象・要件は年度で変わるため、利用時は公式情報で最新の条件を確認しましょう。
これらを踏まえた、現実的な体制づくりの順番は次のとおりです。
- 社内担当者を1人決める — 業務を理解し、前向きな人を選びます。
- 公的な研修・相談から始める — とちぎビジネスAIセンターや県のリスキリング相談など、無料の入り口を使います。
- 小さな業務で試す — メール作成や議事録など、効果が見えやすい業務から着手します。
- 必要に応じて外部伴走を足す — 社内だけで進みにくい部分を、外部の支援で補います。
- うまくいった使い方を社内に残す — 手順やルールを文書化し、次の業務へ広げます。
人材育成に使える制度確認のポイント
研修や外部支援には費用がかかりますが、制度を使えば負担を抑えられます。確認したいポイントは次のとおりです。
- 無料の公的支援を先に使う: とちぎビジネスAIセンターの研修・伴走支援、県のリスキリング相談など、まず無料の入り口を確認します。
- 研修費・導入費の制度: 研修経費や賃金の一部を対象とする国の人材開発支援助成金、ツール導入や外部支援費を対象とし得る年度の補助金(デジタル化・AI導入補助金など)の要件を確認します。
- 申込時期と期限: 公的な研修・派遣・補助金には募集枠と期限があるため、早めの準備が安全です。
制度は名称・内容・要件が年度ごとに見直されます。申請を検討する際は、各実施機関の公式情報で最新の条件を必ずご確認ください。
AI人材がいないことは、導入をあきらめる理由にはなりません。鍵は、社内担当者を決め、無料の公的支援や研修で足並みをそろえ、必要に応じて外部の伴走を組み合わせる体制づくりです。私たちエンジェルホールディングスも、自社で生成AIを業務に取り入れる中で、業務を整理し使い方を社内に残しながら定着させてきました。栃木県でAI導入の進め方に迷ったときは、お問い合わせや無料AI診断もご利用いただけます。
よくある質問
社内にAIに詳しい人が一人もいなくても導入できますか?
できます。いまの生成AIは日本語の指示で使えるため、専門のエンジニアがいなくても始められます。まずは業務を理解した社員を社内担当者として1人決め、無料の公的研修や外部の伴走支援を組み合わせるのが現実的です。IPAの「DX動向2025」でも、DX推進人材が不足している日本企業は85.1%にのぼり、人材がいないのは多くの企業に共通する状況です。
AI人材は採用と育成のどちらを優先すべきですか?
多くの中小企業では、まず既存社員の育成を優先するのが現実的です。経済産業省の調査ではIT人材は2030年に最大で約79万人不足すると試算されており、専門人材の採用競争は激しい状況です。海外の調査でも、新規採用より既存社員のリスキリングを重視する傾向が見られます。業務を知る社員が外部支援を受けながら学ぶほうが、現場にも定着しやすくなります。
社内担当者にはどんなスキルが必要ですか?
高度な技術力よりも、自社の業務を理解し、現場と外部支援の橋渡しができることが重要です。具体的には、困りごとの整理、現場と経営層・支援者の橋渡し、利用ルールの徹底、うまくいった使い方の社内共有といった役割を担います。新しいツールに前向きで、業務全体が見えている人が適任になりやすいです。経営層が方針を示し、相談に乗る姿勢を持つことも欠かせません。
外部の伴走支援はどんなときに使うとよいですか?
どの業務から始めるか社内で判断がつかないとき、何度か試しても定着しないとき、担当者が本業と兼務で時間を取りにくいとき、セキュリティの確認が必要なときなどに有効です。経済産業省の「DX支援ガイダンス」も、人材・資金が不足しがちな中小企業には、地域の支援機関が中長期で寄り添う伴走支援が有効としています。使う際は丸投げにせず、最終的に自社で回せる状態を一緒に目指すのがコツです。
栃木県でAI人材育成に使える支援はありますか?
あります。県が設置する「とちぎビジネスAIセンター」では、2026年度に経営者向けDX戦略研修や実務者向けの生成AI業務改善研修、専門家による伴走型支援(DXアドバイザー派遣)が参加費無料で実施されています。県のリスキリング相談やUdemy Businessのライセンス提供、国の人材開発支援助成金なども活用できます。対象や募集時期、要件は年度で変わるため、各機関の公式情報で最新の条件をご確認ください。
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